斉藤ふみ × 野田孝則
自己チューでパンクなんです ~ファッションとわたし~
斉藤ふみ
九州のテレビ、ラジオで活躍中のタレント、ファッションデザイナー。
1974年7月「23日生まれだから」というシンプルな理由で「ふみ」と名付けられる。
KBC九州朝日放送のテレビ番組『ドォーモ』のメインMCをはじめとして、
FM福岡の人気パーソナリティとしても活躍中。
2010年、自身がデザイナーを務めるベビー服ブランド
「SHEEPMAN WONDER (シープマン・ワンダー)」を立ち上げた。一児の母。
- 野田
- 今日はデザイナーとしての顔も持つ斉藤さんに
「ファッションとわたし」的なテーマでお話しを伺いたいなと。
斉藤さんは自分で服も作ってますよね?
- 斉藤
- はいはい、作ってますし、
ブランドも立ち上げたんですけど・・・。
- 野田
- けど?
- 斉藤
- ・・・けどぉ、もう1年以上何もやっておりません(笑)
- 野田
- え、どうしたん?
- 斉藤
- 「シープマン・ワンダー」をやめるつもりは全然無いんですけど、
今のところ作れば作るほど、”赤”になるという(笑)。
最初の立ち上げ資金すら、全く回収できてないという状況です。
- 野田
- それはそれは(苦笑)
- 斉藤
- でも分かったことが一つあります。
私、向いてないんですよ、自分で売ったりするのは。
まるで経営に向いてない。
やっぱり服は「売る」より「買う」方がいいですね(笑)
- 野田
- 原価率なんて考えないで
「喜ばれる服」を作るって言いよったもんね。
- 斉藤
- そうそう、妥協は絶対出来ないからですね、特に子供服は。
- 野田
- でも、僕ら素人から見ると、
それだけこだわりを持って作った物だったら
値段を上げればいいのに、と思うけどねぇ。
- 斉藤
- それが子供服ってなかなか値段は上げられないんですよ。
特に赤ちゃんの服って言うと、みんな成長が早いじゃないですか。
着ても1年とかいう世界なわけですよ。
それに5千円も1万円も出せるのは
よっぽど生活に余裕がある人じゃないと、という現実が
「シープマン・ワンダー」を始めて2年ぐらいでわかりました(笑)
- 野田
- 2年もかかっちゃった(笑)
- 斉藤
- で、ある日「最初に使ったお金、まったく回収出来てないよね」
と家族に真顔で言われ(笑)、
「そうだよねぇ」と真顔で返しました(爆笑)
- ※編集注
- 経営難の話がこれほど明るいのは彼女の人間性だと思われます(笑)
- 野田
- もうやらないの?
- 斉藤
- 今まだ、在庫があるものはウェブでも売ってます。
作った物に関しては全部、自信があるので、
販売をやめたりはしないですね。
ただ、仮に在庫が全部売れたとしても、
決して儲かりはしないという世の中の厳しさを
ガチで目の当たりにしています(笑)
- 野田
- そもそも斉藤さんって、洋服に対する
お金のかけ方が半端ないですよね。
- 斉藤
- 仕方が無いですよね。
「水を飲む」のと一緒なんですよ、
私にとって「服を買う」という行為は。
朝起きたら水を飲むのと何ら変わらないというか、
ファッションにふれてないと生きていけないんですよね。
もう”人”じゃなくなっちゃう。
- 野田
- 何でそんなにファッション好きになったの?
- 斉藤
- やっぱり一番は「コンプレックス」ですね。
自分の顔にもスタイルにも自信が無いし、
頑張って何かをやっても「おもしろい」とは言われますけど
「女らしい」とは言われない。
- 野田
- はいはい(笑)
- 斉藤
- うなづかないでくださいよ!(笑)
だから、そんな中で、自分を磨く手段として
最高だと思ったのが洋服だったんですよ。
例えば、デニムを穿くにしても、
ちょっと形が違うだけで細く見えるとか、
ほんのちょっとした違いで、自分の見え方が
全然違うって発見したときに「これだ!」って思ったんですよ。
- 野田
- それ、いくつぐらいの時?
- 斉藤
- 高校生ぐらいの頃からファッションは好きだったんですけど、
その頃は「マドンナがカッコイイからケミカルウォッシュの
ジーンズを穿こう」とか、その程度だったんですよね。
で、20歳ぐらいでこの仕事を始めてから、
「人に見られる」っていうのを意識するようになって、
どうやったらちょっとでも自分が良くなるかを
考えているうちに、どんどん洋服が好きになって、
今はもう大変な事になってしまってます(笑)
- 野田
- 大変な事になってしまいましたか(笑)
- 斉藤
- それで、洋服そのものが好きになって、
「ハンガーにかかっているこの感じが好き」とか、
お気に入りの服を壁に掛けてるだけで幸せなんですよ。
- 野田
- 着なくても?
- 斉藤
- 着なくても。
画になるんですよ、洋服って。
- 野田
- 確かにTシャツとかも
並べて飾ってるだけでカッコイイもんね。
- 斉藤
- でしょう?
だから着るだけじゃない、服のすべてが好きになったんです。
自分を幸せにしてくれるものなんですよね、服って。
だって、自分が好きなものを選んでいいわけだし、
人に似合ってないと言われても気にしない、
”自己中心的でいられる”最高のものだと思ってます。
- 野田
- 僕はディレクターとして、斉藤さんのデビューの頃から、
ご一緒させて頂いてますが、初めて一緒にロケに
行ったときの服を今でも覚えてますよ。
古着なのか、ただ古いだけなのか、よくわからない服でしたね。
その時「ああ、この子は新人でお金も無いんだろうなぁ」
と切ない気持ちになったのを思い出しました(笑)
- 斉藤
- わかりました?(笑)
あの頃はホントにお金なかったですもん。
- 野田
- よく頑張りました(笑)
- 斉藤
- でも、お金が無い中でも自分なりに
ファッションにはこだわりがあったんですよ。
それで、すごく気に入ってた靴とコートをいつも着てたんですよね。
そしたら野田さんから「お前、またそれ?」
って言われた事ありますよ(笑)
- 野田
- 俺が言った?
ヒドイ事言うね(笑)
- 斉藤
- ダメージ系のデニムを見て「破れとうよ」
とかも言われたし、ヒドイよ(爆笑)。
でも、そんな事があって今があるんだとは思いますけど。
- 野田
- 私の暴言がバネになって、今の斉藤ふみがあると。
- 斉藤
- いや、そこまでは言ってない!
- 野田
- そんなこんなで、服にはまって、
これまでにいくらぐらい使いました?
- 斉藤
- うわぁ恐ろしい。考えたくない!
- 野田
- 例えば、今乗ってる車何台分とか?
- 斉藤
- (しばし考えて)
10台はイッテるんじゃないですかね。
そんなに高い車じゃないですけど。
- 野田
- (車種を知ってるだけに)
えーっ、それ家が建つやんか!
- 斉藤
- あ~建つかも、安い家だったら。
- 野田
- だったら、家建てた方がよかっ・・・
- 斉藤
- (遮って)
そういう問題じゃないんですよ!
家が欲しいわけじゃないんですよ、洋服が欲しいんですもん。
- 野田
- あ~、はいはい
(分かったような、分からないような)
- 斉藤
- 私、散々貧乏してきて、なにしろ小学校6年生まで
家族4人で6畳一間の生活でしたから・・・。
その反動のすべてがファッションに向かってるんでしょうね。
- 野田
- 今でも無茶買いしてる?
- 斉藤
- 以前は、好きと思ったら、値段も何も見ないで
無茶買いしてましたけど、ここ10年ぐらいは
ちょっと考えるようになって、買い方も変わってきました。
ホントに長く着られるものなんだけど、
面白い服を選ぶようにしています。
- 野田
- 面白い服?
そういや今日のスカートも面白いよね、
カウボーイが馬に乗る時、ヒラヒラさせてるような革で。
- 斉藤
- (無視して)
長く着られるものなんだけど、
オーソドックスなものよりは、ちょっとでも
”思想が見える服”が好きなんですよね。
- 野田
- パンクだね。
- 斉藤
- そう!そうなんですよ、まさにパンク!
- 野田
- でも長く着られるものばっかり買ってると、
カラダ一つじゃ足りなくなるよね。
着ないというか、着る時間が無い服が出てくるでしょ?
- 斉藤
- はい、それが今、私の人生の課題なんですよ。
でも、若い頃に比べると1着の単価が上がってないですか?
例えば、昔は5千円のものを5着買ってたのが、
今は2万円を1着だけとか。
- 野田
- あぁ、それはあるかもね。
- 斉藤
- それでバランスが取れてるんじゃないですか?
ダメ?そんなんじゃ(爆笑)?
- 野田
- 修行が足りないね、お互い。
- 斉藤
- 修行?
もう一回行きますか?インドに。
- ※編集注
- 斉藤さんと野田はかつて、テレビ番組の企画で
インド・ガンジス川源流までのロケを敢行。
テーマは「修行と言えばインドの山奥」という、
わけのわからないものだったが、激しい下痢と腹痛、
高山病と戦いながら、ヒマラヤの氷河が溶け落ちる
ガンジス川源流の撮影に成功したのだ。
- 野田
- 考えてみたら、斉藤さんとは
過酷なロケいっぱいやりましたね。
- 斉藤
- やったやった。
北海道の礼文島を歩いて日本最北端を目指したり、
ハワイ島の上空で吹き出す溶岩を撮影したり、
公園の泥水すすったり・・・。
そんなのに比べたら、行った人みんなが
「大変だよ、キツイよ」って言ってた
屋久島の縄文杉登山なんかは、結構楽勝な方だったかも。
- 野田
- もう出来ないんじゃない?
- 斉藤
- うん、出来ない・・・って、
そんなネタ振りみたいなトークはやめてください(笑)。
でも、そんな過酷なロケの機会が無くなった分、
最近はスタジオでお話しするお仕事をいただけるようになりました。
最初は私みたいな人間がコメンテーターみたいな事やっていいのか、
と思ってお断りしてたんですけど、「やるべきだ」っていう
周りの人たちに背中を押されるようにしてやってます。
だからこそ、勉強しなくちゃ、
という気持ちが年々強くなってますね。
いい意味で”とんがっていたい”からですね。
- 野田
- 年齢とかキャリアで、ポジションは
変わっていくかもしれないけど、
いくつになっても”とんがった”というか
”エッジが利いた”仕事はしていきたいね。
- 斉藤
- はい。
”エッジが利いてる”っていうのは、
”ゆずれないものがある”っていう事だとも思うんですよね。
それが私にとっては”ファッション”なのかな。
- 野田
- お、うまくまとめてきたね。
- 斉藤
- うまい?私うまくなりました?
- 野田
- うん、20年前に比べると格段にうまくなったね。
今日はありがとうございました。
- 斉藤
- ありがとうございました。
え、こんなインタビューでいいんですか?
(帰り支度をしながら)
ファッションかぁ・・・、
やっぱり、その人の生き方とか、
思想が無いと、服に着られちゃいますからね。
- 野田
- それ名言?「服は着ても・・・」
- 斉藤
- 「着られるな」
- 二人
- (拍手・大爆笑)
2015年5月吉日
FM福岡にて