徳永玲子:「習う」ということ ~日舞と三味線とわたし~ | 福岡の映像制作会社ピー・ファクトリー野田の対談集

ノダ話~対談集~

徳永玲子 × 野田孝則

「習う」ということ ~日舞と三味線とわたし~

徳永玲子

九州のテレビ、ラジオで活躍中のタレント、元女優。
中学2年の時に地元劇団「テアトルハカタ」に入団し、女優としての道を歩み始める。
2001年、KBC九州朝日放送のテレビ番組『アサデス。』のメインMCとして、
福岡県はもとより、九州・山口の朝の顔となる。
日本舞踊師範・三味線名取の両資格を生かした教室講師も務めている。
365日休まず飲むという酒豪でもある。

徳永
シラフの時にお会いするのは久しぶりですねぇ(笑)
野田
そう言えば、たまに飲むことはあるのに、
しばらく仕事してないですなぁ(笑)
※編集注
地元大手ディスカウントショップ提供の番組で長期間一緒だった他、
特番やCMでも多数お仕事させていただきました。
徳永
今日は何ですか?テーマはお酒?
野田
いやいや、「お酒」テーマも考えたんですが、
「毎日飲んでます。以上!」で終わるだろうな、と。
徳永
良くおわかりで(爆笑)
野田

だいたいあんた、飲んだらすぐ寝るから、
語るも何も無いでしょうが。

徳永
はい、何も覚えてまっしぇん(笑)
野田
で、今日お伺いしたいのは、徳永玲子のもう一つの顔である、
日本舞踊や三味線の名手という部分です。
徳永
名酒?あ、名手? (以下、ノリ突っ込みは省略)
とんでもない!私なんてまだ駆け出しですよ。
野田
駆け出しも何も、もう何十年もやってるでしょう?
師範だったり名取だったりもするわけだし。
徳永
元々は、お芝居をやっていて、そのお芝居で、
何か役に立てばいいなと思って日本舞踊を始めたんですよ。
野田
基本的に女優ですもんね。
徳永
それは自分で言ってるだけで、もうネタみたいなものです(笑)
お芝居って役どころによって、普段の自分と
違う動きを求められたりするんですよね。
それで、所作をキレイにしたいなと思ったのが
日本舞踊を始めたきっかけなんですよ。
野田
所作をキレイに、ですか?
徳永
どうも自分は所作が美しくない、と。
日常生活でも、ただの酒飲みなんで。
野田
所作を美しくしたいと習い始めた日本舞踊が30年。
今では立派な師範ですよね。
徳永
だからホントにまだまだなんですよ。
師範なんて偉そうな称号はいただいてますけど、
自分のお師匠さんたちに比べたら赤子同然です。
野田
いくつになっても謙虚ですよね、徳永玲子は。
初めて会った、というか見たのは30年ぐらい前、
某放送局の忘年会だったと思うんですけど、
そのときも局の偉そうなおじさんはもちろん、
若いスタッフにも最高の笑顔で、お酌してまわってましたもんね。
あの時の印象は僕の中で今でも鮮烈に残ってますよ。
「テレビで人気者でもこんなに腰が低いんだ。すてきな女性だな」って。
徳永
覚えてないですけど、たぶんサッサとみんなに注いでまわって、
自分が早く飲みたかっただけじゃないですかね(笑)
野田
本当の思惑はともかく(笑)、なかなか出来る事じゃないですよ。
それこそ、あの飲み会での所作も美しかったですけどね。
徳永
これがまた、「所作を美しく」なんて、
さすがに簡単とは思ってませんでしたが、
踊りの形さえ習って覚えれば出来るだろうと思ってたら
とんでもない。 まったく太刀打ち出来なくて。
何が難しいって、音楽がわからない。
野田
音楽?踊るときの?
徳永
そう、だってそれまでの人生でそんなリズムで
カラダを動かした事なんてありませんでしたし。
野田
はいはい、僕らがカラダを動かすリズムって、
欧米のアフタービートだったり、
演歌や民謡の”モミ手”リズムですもんね。
徳永
何が基準で、何をきっかけに動けばいいかが全くわからない。
音符が無いところも心に入れて踊らなきゃいけない、
いわゆる”間”ですよね。
それで、”踊りが飛び出る”わけですよ、音が無いから。

一つの動きがあって、何のつながりも無く
別の動きが始まるから、体操だって。
「それを繋げなきゃ、お話しになんないでしょ!」って怒られて。

そんな事言われても、音楽がわかんないから、仕方ないですよね。
でも、20歳の頃始めて、その時点で
10年ぐらいやってたんですから、面の皮が厚いですよね。
野田
いやいや、分からん中で10年続けていたって、
ある意味スゴイですよ。
徳永
あはは、
それで「こりゃいかん、音楽がわからんと、これ以上踊れない」
と思って 三味線を習うようになったんですよ。
だから三味線ももう20年ですが、 結局、
踊りも三味線もどちらも奥が深すぎて、抜けられなくなりました。
野田
一言で三味線って言っても色んな種類があるじゃないですか。
それこそ沖縄の三線(さんしん)から、東北の津軽まで。
徳永
私のは細棹(ほそざお)。
長唄に使うやつです。
野田
観ました観ました、
観たっていうか撮りました、長唄コンサート。
玲子ちゃんが司会で、お師匠さんの
「四世 今藤長十郎」 先生のコンサート。
※編集注
四世 今藤長十郎
長唄女流三味線奏者。長唄今藤流四世家元。
人間国宝である「三世 今藤長十郎」の三女。
野田
でもビックリしましたよ、
特別出演が市川染五郎さんでしたから。
徳永
七代目、素敵でしたよね。
※編集注
七代目 市川染五郎
歌舞伎名跡「市川染五郎」の当代。
日本舞踊松本流、三世家元。
歌舞伎のみならず、現代劇やテレビドラマでも活躍中。
野田
踊りの事がよく分からない僕でも
圧倒されるほどの、それこそ”所作”でしたね。
徳永
でしょう?だから終わった後、野田さんから
「あんた踊らんやったね」って言われましたけど、
まだまだ無理です。全然レベルが違いすぎます。
野田
うん、確かにあのメンツの中で踊ってたら、
恐れ多くて、もう徳永玲子には近寄れない(笑)
徳永
うちの師匠はお父様が人間国宝ですからね。国の宝ですよ。

でも今、改めて思いましたけど、例えば落語家の方でも
人間国宝になられた方っていらっしゃいますよね。
日本舞踊でも落語でも、極めた人はもちろん、
極めていく過程で、お芝居がすごく
上手になっていくような気がします。

根底にあるものを極めた人って、
何事にも秀でていくんじゃないでしょうか。
そういうものをちゃんと勉強したいなと思います。
野田
なるほど、「所作が美しくなりたい」から始めた
という日本舞踊や三味線ですけど、
今現在、普段の生活に役立ってる事ってありますか?
徳永
(即答) 無いですねぇ。
野田
無い!?
例えば、お酒を飲む動きが艶やかになったとか・・・。
徳永
(遮るように) 無い無い。
いつもベロベロに酔っ払ってるだけなんで(笑)
野田
たしかに(爆笑)
徳永
だけど、勉強してる私って素敵だなと。
もう50歳なのに、すごく謙虚な気持ちでいられるんですよ。

若い頃は謙虚だったのに、キャリアを重ねると
怠慢になる方っていらっしゃるじゃないですか?
「ゴールが見えて来た」みたいな感じで、
何だか「このあたりでいい」って思ってるような。
私はそれ無いですもんね。

ありがたいことに周りにスゴイ人がいっぱいいらっしゃるから、
「このあたりがゴール」なんて思えないし、ずーっと勉強だから、
「ああ、勉強し続けてる私って素敵」って思っちゃいますもん。

「習う」ってそういう事じゃないですかねぇ?
「もっともっと」って思うから、
気持ちが若くいられるんだと思います。
野田
なるほどね、
日本舞踊を30年、三味線を20年やってきて、
一番大事な事って何だと思いますか?
徳永
もうお亡くなりになったんですが、
以前、日舞の師匠に同じ事を聞いた事があるんです。
そしたら先生がおっしゃったのは「礼儀作法」だったんですよ。
野田
へ~、でもそれは基本でしょう。
徳永
ところが「基本」っていうのは二番目だっておっしゃるんです。
一番大事なのは「礼儀」。
「基本」に入るのはそれからだと教えられました。
野田
「基本に入る前に礼儀」っていい教えですねぇ。
でも昔から、礼儀はキチンとしてたでしょう。
徳永
いやいや、意識してると全然足りない事に気づきますよ。
それを積み重ねていくと人間として
成長できるという教えですから、
「礼儀作法」をサボるとすぐ”芸に出る”んですよ。

心がけているからすぐにうまくなるという事はありませんけど、
サボるとすぐダメになっちゃう。
だから、誰も見ていなくても自分に厳しくなれるんですよ。

それで何事に対しても「ありがとうございます」
という謙虚さが自然に身に付いてくるというか。
それに「ありがたいもの」が多いと人生は楽しいですよね。
野田
でも30年やってたら相当なものでしょう。
徳永
いやぁ、私の場合は舞台に立っても
「終わったらどこに飲みに行こうか」とか、
「今日はキンキンに冷えたビールがうまいぞ」
なんて思ってるから全然ダメなんでしょうね。
雑念が多すぎる。それがいけないんでしょうね。
二人
(大爆笑)
野田
いやいや、これからも雑念だらけの
素敵な徳永玲子でいてください。
今日はありがとうございました。
徳永
ありがとうございました。
次いつ飲みに行きましょうか?
2015年4月吉日
(株)ランドマークスにて
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